相続の基本知識(4)

遺留分とは?

 日本国では憲法21条3項で私有財産制度を保障していますから、自分の財産はどのようにしようと自由であるのが、原則となっています。
 これは生前だけでなく死後も同様です。

 ですから遺言により法定相続分に関係なく財産の処分の仕方(相続、贈与、寄付等)を決定できるのが原則です。

 しかし、たとえば故人が全財産を愛人に遺贈するとの遺言書が残して亡くなった場合を考えてみてください。
 残された配偶者や子供などの相続人が生活に困る事になるかもしれません。また法定相続人は被相続人(故人)の財産形成に貢献している場合では、公平を欠く結果となります。そのため被相続人の自由な財産処分権と相続人の相続権の調和を図るため、相続財産における一定割合内で相続人が自分の取り分として主張する事の出来る『遺留分』という制度を設けています。この遺留分により不当な遺言をされた相続人が救済される事となる訳です。

 また遺留分を侵害された相続人が自分の遺留分割合を主張することを遺留分減殺請求権といいます。

 

誰が遺留分を持つのか?

 では、遺留分は相続人であれば、誰でも主張できるのでしょうか?

 残念ながらそうではなく、遺留分を有する相続人は兄弟姉妹を除く相続人とされています。(民法1028条)
 具体的には、配偶者、子(代襲者含む)、直系尊属ということになります。

 

遺留分計算の基礎となる財産は?

 遺留分とはどのように計算するのでしょうか?

 遺留分は法定相続分と同じように財産に対する割合で定められています。
 ただし少しややこしいのですが、遺留分計算の基礎となる財産と法定相続分計算の基礎となる財産は少し異なります。
 具体的には、相続財産に次のものを加算した価額となります。(民法1029条、1030条)

  • 当事者双方が遺留分を持つ相続人に損害を加えることを知って、贈与をした場合の財産
  • 相続開始前の1年間に贈与をした場合の財産

 なお、これらの贈与は特別受益の場合と異なり、相続人以外に対しての贈与も対象となりますので、注意してください。

 

遺留分の割合

 遺留分計算の基礎となる財産の一定割合が、遺留分として相続人に保護される事となります。

 その一定割合ですが、以下のとおりです。

 直系尊属のみが相続人の場合                ……… 3分の1
 配偶者、子(代襲者を含む)が相続人に含まれる場合     ……… 2分の1

 分かりやすいように遺留分の割合を表にまとめてみます。

遺留分
配偶者あり 子(代襲者を含む)あり 配偶者   1/4
子     1/4を等分
子(代襲者を含む)なし 直系尊属あり 配偶者   1/3
直系尊属   1/6を等分
直系尊属なし 兄弟姉妹(代襲者含む)あり 配偶者   1/2
兄弟姉妹  なし
兄弟姉妹(代襲者含む)なし 配偶者   1/2
配偶者なし 子(代襲者を含む)あり 子     1/2を等分
子(代襲者を含む)なし 直系尊属あり 直系尊属   1/3を等分
直系尊属なし 兄弟姉妹(代襲者含む)あり 兄弟姉妹  なし

 

 

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相続の承認と放棄

 相続が発生した場合、被相続人(亡くなられた方)が亡くなられた際に有した権利や義務はすべて相続人に引き継がれるのが原則です。

 ですから、被相続人が多額の借金を抱えて亡くなった場合は、その借金も相続人である子供などに原則として引き継がれます。

 ただ財産を残してくれるならともかく、借金を相続なんかしたくないという人もいるでしょうし、また被相続人の残した借金で相続人の人生が大きく変わってしまうのも酷に思いませんか?
 そんな場合のために、相続を行うにあたり一定期間内において、「単純承認」、「相続放棄」、「限定承認」の3つの手続きの中から選択することができるようになっています。

 この選択をうまくすることにより、借金の相続を放棄することも可能となっています。
 では、3つの手続きを順に確認してみましょう。

 

単純承認

 単純承認は相続の原則どおり、被相続人の権利や義務(借金も含めて)をすべて相続する方法です。
 相続の一般的な方法ですので、書面を提出したりなどの手続きはしなくても可能です。

 具体的には以下の行為を行った場合に単純承認したとみなされます。

  • 相続人が自分に相続が発生したことを知った日から、3ヶ月の期間内に相続放棄または限定承認をしなかった場合
  • 相続財産の全部または一部を処分(他人に売った場合や譲った場合など)した場合や、相続財産を私的に使用した(被相続人の預金を勝手に使用した)場合
  • 相続放棄や限定承認をした後に、相続財産をわざと隠したり、勝手に利用した場合

 最初の例から分かるとおり、自分に相続が発生したことを知った日から3ヶ月の期間内に何もしなければ単純承認となってしまいますので、相続が発生した場合は借金等のマイナスの財産がないかどうかの調査は相続発生後の早い段階で行うようにしてください。

 

相続放棄

 相続放棄は相続人たる地位を放棄することです。

 相続放棄を行うことで、被相続人からの権利や義務をまったく引き継ぐ必要がなくなります。
 ですから相続財産が明らかに借金の方が多い場合には、相続放棄を行うことで被相続人の借金を返済する義務はなくなります。

 しかしながら、相続放棄を行うことで預金や不動産などプラスの資産もまったく相続できなくなるので、注意しましょう。
 また相続放棄を行うとその人に代襲者(子供など)がいたとしても、代襲相続は起こりませんので注意してください。

 この相続放棄を行うためには、自分に相続が発生したことを知った日から3ヶ月の期間内に被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。
 申し立てには印紙や郵便代等の若干の費用と、被相続人の戸籍(除籍)謄本と住民票の除票、相続放棄を申し立てる人の戸籍謄本などが必要となります。

 なお、相続人が複数存在したとしても、放棄は1人で行うことが出来ます。

 また、相続放棄を行ったとしても相続財産をほったらかしにして資産価値を下げるようなことをする事はいけませんので、注意してください。

 

限定承認

 プラスの財産が多い場合は「単純承認」、マイナスの財産が多い場合は「相続放棄」を選択する事で有利な結果が生まれそうです。
 ただ、被相続人が個人で事業を行っている場合など、プラスの財産とマイナスの財産とどちらが多いか容易に判断できない場合もあると思います。

 そんな時には、限定承認という方法もあります。

 限定承認は「相続で得た財産の範囲内でのみマイナスの財産の責任を負う」という方法です。
 限定承認を利用することで、プラスの財産が多いときは遺産を相続でき、マイナスの財産が多いときは相続人の財産から借金を返済する義務はなくなります。

 とても便利な方法のようですが、実際はほとんど利用されていないようです。
 それは相続人 全員で共同して限定承認を行わなければいけない事と、手続きが煩雑(はっきり言うと面倒くさい)な事だからだと思われます。

 もし限定承認を行う場合は専門家に依頼した方が良いと思いますが、手順を簡単に示しておきます。

 限定承認を行うためには、自分に相続が発生したことを知った日から3ヶ月の期間内被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に、財産目録を添えて申し立てなければなりません。

 またその際には、印紙や郵便代等の若干の費用と、被相続人の生まれてから亡くなるまでの戸籍(除籍)謄本や改製原戸籍、相続放棄を申し立てる人の戸籍謄本が必要となります。
 さらに、申し立ての後、すべての債権者(借金などの貸し手)等に対して、弁済請求の申し出をすべき旨を公告しなければなりません。

 このような手順を踏み弁済の請求が完了し、もし相続財産に残があれば相続人が相続できることとなります。

 

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