遺言の基本知識(3)

法的効果がない項目は書いても意味がない?

 

 確かに法律効果がない項目は何の強制力もなくなりますが、遺言により遺言者の意思を示すことでトラブルの回避となる場合があるため、なるべく遺言書を書いた時の気持ちや理由を書くことをお勧めします。

 例えば相続人の1人に財産分与について有利な遺言書を書いた場合、他の相続人は有利な分与を受けた相続人に、悪い感情を抱く可能性もあります。

 また家業の都合などで遺留分を侵害する遺言書にならざるを得ない場合もあるでしょう。

 そういった場合に1人の相続人に多い財産を譲る理由や、遺言者の意思を遺言書に記しておくことで相続人の理解を得られて、トラブルに発展しない事も充分に考えられますので、法的効果がない項目も遺言書に記しておきたいと思うものは、遺言書が複雑にならない程度で積極的に記載しておきましょう。

 
 

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遺言の方法は?

 

 遺言は遺言人が亡くなった後に効力が生じるものです。

 ですから内容に疑いが生じた場合や、本当に本人が作成した遺言かが疑わしい場合にでも、遺言者の意思を確認する手段はありません。
 したがって、後でトラブルにならないよう遺言の方式を、法律で定めその方式に則って書かれた遺言を有効としています。

 その方式ですが、大きく分けて「普通方式の遺言」と「特別方式の遺言」の2つに分かれます。

 この「特別方式の遺言」は病気などで死亡の危急がせまった場合や、伝染病で隔離された場合、船舶内で一般社会から隔絶された場合などの特殊な場合に認められる遺言です。

 もう一方の「普通方式の遺言」ですが、これはさらに「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3つに分けられます。

 
 

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自筆証書遺言

 

 遺言の方式の中でいちばん簡単なものとされているのが、この「自筆証書遺言」です。

 自筆証書遺言をするには、『遺言者自身』が『その全文』、『日付』および『氏名』をすべて自分で書き、これに『印鑑』を押せばよい(原則として印は実印でなくても構いません。)とされています。
 ですからパソコンやワープロで印字した文書は無効となりますし、日付を「吉日」として正確な日付が確定できない場合や苗字のみ書かれた遺言書は無効となる可能性が高いため、注意してください。

 

 また、遺言書は書面で残さなければなりません。ですからビデオテープに保存した場合や、パソコンに文書を保存した場合なども無効となります。
 ただし、紙については規定はありませんので、どんな紙でも大丈夫です。だからと言ってノートの切れ端とかには書かないようにしてください。相続時に信憑性が疑われ、争いになる可能性も考えられますので。

 この方式の長所は遺言をした内容はもちろん、遺言をしたことすらも秘密にしておけますし、費用もほとんどかからない手軽な方式です。

 しかしながら、以下のような短所もありますので、作成される場合はよく考えてください。

 

自筆証書遺言の短所

  • 遺言書が紛失したり、第三者により偽造や変造のおそれがあります。
  • 作成時に第三者のチェックを入れなくても作成が可能ですから、遺言書としての有効性が低くなってしまうおそれがあります。
  • 遺言書がそもそも発見されないおそれがあります。
  • 遺産分割が終わった後に遺言書が発見されて、再度分割をやり直す事になるおそれがあります。

 

 また、遺言者が亡くなったときは、相続人などが(遺言書に封をしている場合は封を開けずに)家庭裁判所に遺言書を持ち込んで「検認」の手続きを受けなければならなりません。(検認の手続きには戸籍謄本等の書類が必要となります。)

 もしこれを相続人が行わなかった場合、5万円の過料に処せられる可能性があります。

 

 なお、遺言書では書き損じた場合などの加除変更にも方法が決められており、加除変更場所を指示し(二本線で抹消)、変更した事を欄外に記して(○字削除、○字訂正、○字加入)、その部分に署名しなければなりません。
 加除した場所に署名の下に押したものと同じ印鑑を押します。(民法968条2項)

 このように訂正方法が特殊なこともあり注意しましょう。
 もし、不備があった場合は訂正は無かったものとして、もとの文章どおりに扱われます。

 さらに遺言書が複数枚になる場合、契印し(各ページにまたがって押印すること)遺言書の同一性を明確にしておく方が良いでしょう。

 

 以上のように、自筆証書遺言自体は作成が手軽ですが、決められた方式が細かい事から書式等に不備があってせっかく個人が書いた自筆証書遺言が無効になり、本人の意思が反映されない可能性があるというのが一番怖い点です。

 心配な点がありましたら専門家に書き方の指導をしてもらったり、内容をチェックしてもらうことも考慮してください。
 また遺産分割をする際にトラブルになりそうな場合は、できるだけ遺言執行人を指定しておきましょう。

 
 

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公正証書遺言

 

 公正証書遺言は専門家である公証人によって、作成や保管をしてもらう遺言書のことです。
 原則として公証役場というところで作成することとなり、客観性と信頼性が高い遺言書の作成が出来ます。

 作成の際に遺言作成者の意思をしっかりと確認しますし、公正証書遺言の原本が公証役場に保管されますので、偽造や紛失のおそれがほとんどなく、家庭裁判所の検認も必要ない安全、確実な方式です。

 もし公正証書にした遺言を失くしたり破れなどで読めなくなったとしても、同じ内容の文章が公証役場に保管されていますので公証役場に問い合わせることで、写しの交付などが出来ることも大きなメリットです。

 

 逆に作成には証人の立会いが必要になるなど内容を完全に秘密にする事は出来ず、作成に一定の手数料が必要な事もデメリットとして挙げられます。
 なお、この作成の手数料ですが、遺言の内容により価格が異なります。原則的に遺言の財産価格が大きくなると手数料も高くなります。

公正証書遺言作成の手順

 まず、証人2人以上の立ち会いのもと、遺言者が公証人に対し、遺言の趣旨を口授し(話しをして)、公証人がこの口授を筆記します。
 ただし証人には一定の資格がないとなれず、未成年者や相続人となるもの、遺贈を受けるものは証人とはなれません。

 

 次に、公証人が筆記したものを遺言者と証人に読み聞かせるか閲覧させ、遺言者と証人が筆記の正確なことを承認します。

 

 承認後、遺言者と証人が署名押印します。

 

 最後に、公証人が正規の手続きで遺言書が作成された旨を付記して署名押印します。

 

 公正証書遺言は上記のような、手順で作成されます。
 やや面倒な手続きではありますが、安全、確実な遺言書が作成でき、また裁判所の検認も必要ないため、利用する価値は充分ある事から、当事務所ではこの方式の遺言をお勧めしています。
 (検認手続きは時間もかかり、相続人にとっては非常に面倒なものとなります)

 
 

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