遺言書を書く時は(1)

遺留分をどうするか?(遺留分の対処方法は?)

 財産を誰に譲るかを考える際に、一番頭の痛い問題が遺留分でしょう。
 遺留分とは相続財産における一定割合を相続人(兄弟姉妹は除く)が自分の取り分として主張する事の出来る制度のことでした。
 
 本来であれば相続人の遺留分を侵害しない方法を考えるのが一番良いのですが、「家業を一緒に行っている息子に出来るだけ多く財産を譲りたい」場合や「息子に暴力をふるわれて財産を渡したくない」場合など、いろいろな事情により、そうしたくない場合もあるでしょう。

 そういった場合のために、その対処方法としていくつかご紹介します。
 ただしくどいようですが、遺留分は相続人が法的に主張できる権利ですからトラブル防止という観点からは遺留分を侵害しない方法を考えることをお勧めします。
 ですから、どうしてもという場合にのみ自己責任で利用してください。

 また必ずトラブルにならないという訳ではありませんので、注意してください。

 

遺留分の対処方法1 遺留分を主張しにくい状況にする

 遺留分を侵害する遺言を仮に書いたとしても、遺留分を侵害する遺言が当然に無効とはなりません。
あくまでも相続人の請求(遺留分減殺請求権という)により遺留分を侵害する部分を取り返せるにすぎないのです。

 逆に言えば相続人が請求しなければ、財産は遺言の指定どおり譲渡されることになるのです。
ですから何らかの理由で相続人が遺留分を主張しにくい状況があれば、遺留分を侵害しても遺留分減殺請求の可能性は低くなります
 
 
 例を挙げると被相続人の配偶者と子が相続人の場合に、全財産を配偶者に譲った場合です。

 この場合は子からすれば自分の親に法的請求を行いにくい状況と言えますし、配偶者の財産は相続によりいずれは自分の財産となる可能性が高いという意識が働きやすいとも言えるでしょう。
 ただし子の配偶者の意見などで、権利を主張する事も充分考えられますので、過信は禁物です。

 

遺留分の対処方法2 遺留分の放棄をする

 

 相続人の保護のためにある遺留分ですが、実は相続が発生する前に遺留分を放棄することもできます。(民法1043条)

 ただし遺留分の放棄は当事者同士の約束や遺言ではできず、必ず家庭裁判所の許可を得なければならないとされています。家庭裁判所の許可基準として、

1)放棄が本人の自由意思であること
2)放棄の理由に必要性、合理性があること
3)放棄と引き替えに現金をもらうなどの代償性があること

などがあげられています。

 

 遺留分の放棄は相続人に対して不利益を与えるものですから、親の権威などを使ってむりやり遺留分を放棄させないように、慎重な手続きが採られているのです。
 ですから、本人の意思と反して遺留分を放棄させるのは難しいでしょう。

 このように慎重な手続きは必要となりますが、遺留分が放棄されれば、遺言の際に遺留分を気にせずに財産の処分を行うことができます。

 

遺留分の対処方法3 相続人の廃除を利用する

 遺留分がある相続人の中で相続人側に問題があり、特定の者だけに相続をさせたくない場合もあるかもしれません。
 相続をさせたくない理由として相続人に問題がある場合などは、その相続人が相続欠格に該当すれば相続人となれる資格が無くなりますが、該当しなければ遺留分を主張される可能性が残ります。

 そんな場合は家庭裁判所に申立てを行い、相続廃除が認められれば相続分がなくなります。

 家庭裁判所の手続きが必要ですので手軽に利用という訳にはいきませんが、廃除の請求は生前に行うことも可能ですし、遺言でも行うことも出来ます。
 その際には遺言執行者などが、家庭裁判所に廃除の申立てをすることになります。
 請求が認められれば、その者は相続人の資格を失います。

 ただし代襲相続人が存在する場合は(廃除された者の子供など)、その者が相続します。

 

遺留分の対処方法4 生前贈与を行う

 相続開始時の相続財産を減らすために、生前贈与を行う方法です。

 ただし当事者双方が遺留分を持つ相続人に損害を加えることを知って贈与をした場合や、相続発生前1年以内の贈与は遺留分計算の基礎となる財産となりますので、結局、遺留分を主張され、無意味になる可能性が残ることに注意が必要です。

 また生前贈与の相手方が相続人の場合は、特別受益に該当する可能性もあります。
 この場合にも遺留分計算の基礎となりますので、この点にも注意してください。

 さらに、生前贈与の場合、相続税よりも割高な贈与税がかかる可能性もありますので、贈与を行う場合には慎重に行うようにしてください。

 

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特定遺贈をした場合に他の財産と他の相続人はどうなるか?


 遺贈で相続財産の一部を特定遺贈した場合に、残りの財産はどのように相続されるのでしょうか?
 例えば、自宅以外の不動産として別荘を持っていた場合に、そのうちの別荘のみをお世話になった家政婦に遺贈した場合や、相続人である妻に相続させると遺言した場合などです。
 

 まず相続人以外の人に特定遺贈した場合ですが、(上の例の家政婦に別荘を特定遺贈した場合)この場合は相続人の遺留分を侵害しない限り、残りの財産を法定相続人が法定された相続割合で相続することとなります。
 また遺留分を侵害していた場合でも、侵害された相続人(上の例の場合は妻など)が財産を取り返そうとしない限り、遺贈は有効となり残りの財産を相続人で法定された割合に従い分割を行うこととなります。

 

 次に法定相続人の内、一部の者に対して特定遺贈した場合(上の例の妻に別荘を遺贈した場合)はどうなるでしょうか?
 この場合は「特定遺贈の財産価額が法定された相続分の価額を上回っていたか下回っていたか」に分けて考えなければなりません。

 まず特定遺贈された財産の価額が法定相続分を上回っていた場合ですが、その遺贈は財産の分割方法と相続分の指定を同時に行ったとみなされます。
 この場合、他の相続人の遺留分を侵害しない限り、遺贈を受けた相続人が特定された財産を相続し、残りの相続人で法定された相続割合で相続することになる訳です。

 例えば、妻と子供1人が相続人で遺産は自宅(1000万円)、別荘(2000万円)と預金(200万円)があった場合に、別荘を妻に相続させたとします。
 この場合、別荘の価額が自宅の価額と預金の合計額よりも大きいですし、子供の遺留分である800万円は侵害していませんので、妻が別荘を子供が自宅と預金を相続します。

 一方特定遺贈された財産の価額が法定相続分を下回っていた場合はどうなるでしょうか?
 この場合は「相続分の指定を行うことを、遺言者が意図していたかどうか?」により異なります。

 相続分の指定を行わないことが遺言者の意図であった場合(例えば相続分の割合は法定相続分と変更しないが、ダイアモンドの結婚指輪は配偶者に譲りたい場合など)は、特定遺贈を受けた相続人も法定相続分までの不足分を他の財産から補充して相続します。

 ところが、相続分の指定を行うことが遺言者の意図であった場合(例えば遺産のうち法定相続分よりも少ない別荘のみを1人の相続人に譲り、他の遺産はその人に相続させたくない場合など)は、相続分の指定の場合は残りの財産を他の相続人で分割することとなります。

 例えば、妻と子供1人が相続人で遺産は自宅(1200万円)、別荘(1000万円)と預金(1000万円)があった場合に、別荘を妻に相続させたとします。
 この場合、別荘の価額が法定相続分の1600万円よりも少ないですから、遺言者の意図が「相続分の指定を行わない」場合は、預金などから別荘の他に600万円を相続する事が出来ますが、「相続分の指定も行い」場合は別荘のみとなります。

 

 このように法定相続人に対して特定遺贈する場合は、遺産の分割が変化する場合がありますので、遺言書を書かれる際には十分注意してください。

 

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