遺言の基本知識(2)

遺言書で条件をつけて遺贈・相続させることは出来るか?

 

 たとえば遺言で「○○が大学に入学した場合は、学費として遺産から△△の株を遺贈する」といった場合は有効でしょうか?

 結論から申しますと、有効となります。

 

 遺言でも特別な場合を除き条件をつけることができるとされているからです。

 ですから「残された妻の面倒をみることを条件に、◇◇の不動産を遺贈する」といった負担付遺贈とよばれる遺言も有効とされています。
 また可愛がっていたペットの世話を見てもらう事を条件に、財産を譲るということも出来るでしょう。

 

 ただし負担は遺贈の価額を超えないように遺言書を作る事をお勧めします。

 その理由は、負担の方が遺贈の価額を超えてしまった場合、遺贈をうけたものは遺贈価額の範囲内でしか義務を負わなくて良いとされているからです。

 つまり、やって欲しいことが完全に実行されなくなる事も考えられるからです。
 負担付遺贈を考えておられる場合は、注意してください。

 

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遺言に記すことで法的な効果が発生するものは?

 

 原則的に遺言書には何を書いても良いのですが、法的に効果が認められるものは限られています。

 言い換えれば相続発生時に遺言書があったとしても、遺言書に書かれている内容はすべて守らなければならない訳ではなく、原則的に法的に効果が認められる項目のみ守るだけでも別に構いません。

 

 ですから残された配偶者に「一生再婚しないように」と遺言書に書いてあったとしても、別に再婚しても構わない訳です。

 もちろん遺族が故人の意思を尊重して遺言書の内容を実行することは自由ですが、遺言書で認められている効果と認められない効果を把握した上で、遺言書を書く事は非常に重要です。

 

 ここでは、遺言書で法的効果が認められる10項目を紹介いたします。

 

認知(民法781条2項)

 認知とは正式な婚姻関係にない男女間に生まれた子を、父親が自分の子であることを認める法的な手続きの事です。
 なんらかの理由で生前中に認知が出来なかった場合などには、遺言でも認知を行うことが出来ます。

 

後見人および後見監督人の指定(民法839条、848条)

 遺言者に未成年者の子がいた場合に、他に親権を行使する者がいなければ(配偶者など)遺言で残された子の後見人を遺言で指定することができます。
 未成年後見人は残された子の看護や教育の権利・義務を負い、子の財産管理なども行います。

 

相続人の廃除または廃除の取消(民法893条)

 遺言でも相続人の廃除の請求が出来ます。
 ただし遺言で書いただけで廃除が認められるわけではなく、遺言書発見後に遺言執行者が家庭裁判所へ請求を行い、裁判所が認めた場合に廃除されます。
 またいったん認められた廃除を取り消す場合も同様です。

 

遺言執行者の指定、または遺言執行者の指定の委託(民法1006条)

 遺言執行者とは遺言の内容を実現するための職務と権限を持つ者のことをいいます。
 遺言で不動産を遺贈する場合など、遺言の内容を実現するために登記などの手続きが必要な事も多いでしょう。

 もし遺言執行者が指定されていない場合は原則として相続人全員で手続きを行うのですが、相続人同士の利益が異なるなどの理由で一部の相続人が非協力的となり手続きに時間がかかる場合もあります。
 またトラブルにならなくても登記には相続人全員の実印が必要であるなど、煩雑になりがちです。

 しかし遺言執行者を定めることで遺言執行者が単独で遺言の内容を実現することができますので、スムーズに遺言の内容が執行できます。
 遺言執行者には未成年者と破産者以外であればなることが可能です。 ですから、相続人を含めた家族でも指定することは可能ですが、公平な立場で遺言を執行できる人物の方が適任でしょう。
 人選としては信頼できる(出来れば法律に詳しい方が望ましい)友人、知人に依頼することも可能ですが、法的な知識もある程度要求されるため行政書士、司法書士、弁護士といった専門家に依頼する方が良いのではないでしょうか。
 なお、遺言執行者は複数でも構いませんし、遺言執行者の指定を他の者に委託することもできます。

 

財産の処分

 財産を処分(譲る)ことです。
 自分の財産ですからどのように処分しようが自由ですが、遺留分を侵害する場合は、侵害する部分は無効となることがありますので注意が必要です。(侵害したから即無効とはならず、侵害された人が侵害分を請求すると無効となります。)
 また、遺留分を侵害する事で、相続人同士の争いが起こる事も考えられますので、よく注意してください。

 

相続分の指定または指定の委託(民法902条)

 遺言で相続分の割合を指定することです。(例:「◇◇に財産の○分の1を相続させる」)
 ただし相続人の遺留分を侵害する遺言は当然に無効とはなりませんが、相続人から遺留分減殺請求をされるなど、相続トラブルの元になる可能性がありますので注意してください。

 

遺産分割方法の指定または指定の委託(民法908条)

 相続が発生すると原則として各相続人で遺産の分割法(この財産は○○にと決定すること)を協議して決定しますが、遺言で遺産分割の方法をこの財産は○○にと指定することができます。
 また分割方法の指定を遺言で指定した第三者に委託することが出来ます。
 相続トラブルをさけるためにも、出来るだけ1つの遺産には1人を指定する事をお勧めします。

 

遺産分割の禁止(民法908条)

 遺産分割でトラブルが起こることが予想される場合などは、冷却期間を置くことで解決できるかもしれません。
 そのような場合は遺言で遺産分割の禁止をすることも可能です。
 ただし分割禁止期間は5年以内とされていますので、期間には注意してください。

 

相続人相互の担保責任の指定(民法914条)

 例えば400万円の遺産があり、子甲が200万円の預金を、子乙は200万円の丙への貸金を相続したとします。しかし丙の貸金が回収不能となった場合はどうでしょう?
 このままでは甲と乙の間で不公平感が残るでしょう。
そのため法律では回収不能となった200万円については甲も責任を負うということを規定しています。

 しかし、遺言でこの担保責任を変更することが出来るため、回収不能になっても甲は責任をとらないように遺言で指定することも可能とされています。

 

遺留分減殺方法の指定(民法914条)

 遺留分を侵害された相続人が遺留分侵害を取り戻すにあたって請求する順番は、原則として贈与の減殺は後の贈与から始めるとされています。(民法1035条)
 つまりまず「遺贈」を減殺し、次に「時間的に新しい生前贈与」を減殺します。(同時期の場合は財産価格に応じた比率で減殺します)
 しかし、遺言で減殺をどのように行うかを指定することができます。
 つまり、遺言により古い生前贈与から減殺請求をさせることも可能となっています。

 
 

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